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庵曽新に会う
「たしか庵曽新…だったか」
「久し振り」
庵曽新はほたるがこのアパートに住んでいた時の隣家の住人である。ほたるは隣家の兄弟達と家族同然で育ってきたと、辰伶は聞いている。ほたるが辰伶のところへ引越しするときも、彼らが色々と手を貸してくれた。いわば庵曽新たち兄弟姉妹はほたるの幼馴染だ。特にこの庵曽新はほたると歳が近い。
「さて、ここで問題だが…」
「え?」
突如として、辰伶の前に人間の壁が出来た。同じ顔が並んで辰伶を圧倒する。
「こいつらの名前、言ってみな」
「「「「「言ってみな!」」」」」
庵曽新の言うこいつらとは、彼の弟妹たち5つ子である。辰伶は以前に一度紹介されているが、同じ顔の同じような名前の彼らを言い当てるのは至難のことだ。辰伶は真剣になって過去の記憶を手繰った。基本的に、なぜこんなところでクイズのようなことをしなければならないのかという疑問は湧かなかったらしい。
「まずは、絵里庵」
「正解!」
とりあえず、一番判り易いところから消去する。
「それから遊里庵と、紀里庵」
「あったりィ」
残るは妹2人。これが非常に難しい。辰伶は全く覚えていなかった。大体、サンバイザーと帽子以外に見分けるところが無い。辰伶は朧な記憶と直感で言った。
「真里庵」
帽子の方をさして、そう呼んだ。そして、サンバイザーの方をさして言った。
「里々庵」
沈黙が流れた。これは間違えたかと辰伶は思った。その直後に歓声が上がった。
「すご〜い!何で判ったの?」
「あたし達、帽子とっかえっこしてたのにねー」
(引っ掛け問題だったのか。すまん。全然判ってなかったし、本当は間違えた)
辰伶は心の中で謝った。
「正解したならしょうがねえ。コレやるよ」
庵曽新は辰伶に一通の封書を渡した。開けると中からメモが一枚出てきた。
「ほたるからお前に渡すように預かったけど、何だったんだ?」
庵曽新と5つ子たちはメモを横から覘き込んだ。
『ケーキ買って来て』
「何それーっ」
「兄貴達そろって、ほたるのパシリじゃん」
辰伶と庵曽新はメモを視凝めたまま沈黙した。5つ子たちにパシリと笑われて、ちょっと傷ついていたかもしれない。
「…ところで、この名前当てもほたるの指示だったのか?」
「いや、それは…」
庵曽新が辰伶の質問に答えようとしたところに、5つ子の横槍が入った。
「それはねー、兄貴が意地悪してー」
「ほたるがお前のトコ行っちゃったからー」
「すねてんだよねー」
「答えられなかったら手紙渡してやらないってー」
「暗いよねー」
一斉に喋るので要領は得なかったが、大体事情が飲み込めた。ほたると離れて寂しかったのだろう。
「今度うちに遊びに来てくれ」
「ほんと?行く行くー」
5つ子達はハイタッチをして喜んでいる。辰伶は少しほたるが羨ましくなった。
さて、パシリと呼ばれるのは少々悔しいが、今日はクリスマスである。ほたるの要望通り、ケーキを買ってやろうと思う。
「あいつはどんなケーキがいいんだ?」
昨日のバイト中の雑談の中で、ケーキについてほたるが何か言っていた。確かイチゴのケーキがどうのと。或いはクリスマスケーキといえば、フランスではブッシュ・ド・ノエルという丸太の形のケーキを食べるのだとか。
さて、どちらを買って行くべきだろうか。
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