+・+ 同居シリーズ +・+

帰宅

 

 辰伶が玄関のドアを開けた瞬間、派手な炸裂音が鳴った。辰伶の心臓が一瞬だけ止まる。

「おかえり」
「…ただいま」

 ほたるはクラッカーで辰伶を出迎えた。クラッカー3つを一度に鳴らしたので相当な音がした。近所迷惑になったかもしれない。辰伶は頭の上の紙テープを払いのけた。髪に絡まって中々とれない。

「ほら。お前に頼まれたケーキだ」

 ケーキの箱をほたるに渡した。

「ありがと。こっちも準備できてるから」
「準備?」

 リビングに入ると、そこは小さなパーティ会場と化していた。ローストチキンなど如何にもクリスマスっぽい料理にクリスマスツリー。テーブルにはキャンドルや花まで飾ってある。

「ほたる。これは?」
「出前」

 どうやらクリスマスパーティセットのケータリングサービスらしい。テーブルの中央が寂しく空いているが、そこにはケーキが置かれて完成した。

「あ、イチゴだ」

 生クリームにイチゴの乗ったホールのケーキ。日本では実にオーソドックスなクリスマスのケーキだ。辰伶は散々迷ったのだが、昨日ほたるがイチゴのケーキの話をしたときに、滅多にみない優しい表情をしたので、おそらくこれが好きなのだろうと思って選んだのだ。

「やっぱりクリスマスはイチゴのケーキだよね」
「そうだな」

 卒然として辰伶は腑に落ちた。ほたるはユール・クラップを使って辰伶を家から追い出して、その間にこのパーティの準備をした訳だが、このパーティこそが、ほたるの仕掛けたユール・クラップの最終的な答えでもあり、ほたるから辰伶へのクリスマスプレゼントだったのだ。手段と目的の見事なまでの融合に、辰伶は感心した。

「クリスマスとは、楽しいものなんだな」
「来年もする?」
「そうだな」

 ほたるは嬉しそうに微笑んだ。辰伶はその笑顔を見て、何故、世間の人々がクリスマスを愛するのか理解した。

「約束だよ」
「ああ、約束だ」

 来年も2人でクリスマスを祝おう。2人でクリスマスの準備をしよう。


おわり

+・+ 同居シリーズ +・+