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帰宅
「おかえり」
家に帰ると、玄関でほたるに出迎えられた。
「ケーキ買って来たぞ」
ケーキの箱をほたるに渡した。
「こっちも準備できてるから」
「準備?」
リビングに入ると、そこは小さなパーティ会場と化していた。料理や飲み物。小さいながらもクリスマスツリーもある。
「ほたる。これは?」
「出前」
どうやらクリスマスパーティセットのケータリングサービスらしい。この為にわざわざユール・クラップを仕掛けて辰伶を追い出したのだ。いや、これこそがユール・クラップそのものなのだろう。
ほたるは箱からケーキを取り出し、空けられていたテーブルの中央にケーキを置いた。
ブッシュ・ド・ノエル。それはユールの丸太に由来し、起源は古代メソポタミアまで遡ると言われている。ユールの丸太は、森から斬ってきた巨木に青葉やリボンを飾り付けてつくられ、火をつける。その光や灰、燃え残りには様々な魔力があると信じられていた。北欧のユールの祭りがクリスマスになった時に宗教的な意味は失われたが、その形は現在でもフランスのクリスマスケーキに残っている。
「ふうん。これがブッシュ・ド・ノエルね」
「お前が昨日、教えてくれたんじゃないか」
「見るのは初めて」
ケーキが置かれたところで、パーティのテーブルは完成した。それにしても、今回のほたるの手際の良さには舌を巻く思いだ。普段は全く無計画なこの漢がパーティの手配など、よくやったものである。
辰伶はこんなクリスマスは初めてだった。いや、幼稚園や小学校のクリスマス会などを除けば、クリスマスを祝うこと自体、初めてだった。
「クリスマスとは、楽しいものなんだな」
「知らなかった?」
「ああ」
「じゃあ、良かったね」
ほたるの口調はいつも通り淡白で、実にあっさりと言ったが、その言葉は辰伶の胸に温かな火を灯した。
「ありがとう。ほたる」
来年はほたるの為にクリスマスの用意をしてやろう。必ずクリスマスを祝ってやろうと、辰伶は思った。
おわり
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