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この道の遙かを

-ほたる-


 もしかしたらこうなることは、生まれた時から決まっていたのかもしれない。

 噴き上げる炎のように。
 逆巻く水のように。

 俺たちは、どこまでも相容れはしないのだから。

 孤独の中の最強を求めていた俺は、真の最強の前に敗れた。力で負けたとか、技で負けたとか、信念で負けたとか、考えれば色々と理由が出てくるのだろうけど、考えることは苦手だし、それにそんなことはどれもきっと大したことじゃない。

 俺は狂と戦って・・・負けて、その時に確かに見えたものがあった。俺が求める力、俺が望む場所、俺が目指す道。狂に対して負けを認めた時に、それが見えた。

 …ちょっと違うかもしれない。俺が目指す道の、その遙か先が見えたから、俺は負けを認めたんだ。だいたい道は最初から見えていたし、俺はその先にあるものを、ずっと見極めたいと思っていた。だけど、そこに『こいつ』がいたから。

 こいつは、俺のだいたい10歩くらい前にいて、俺が見たいものをその背に隠して、いつも不機嫌そうなツラで俺を見ていた。何が気に入らないんだか知らないけど、多分、こいつは俺のことが嫌いなんだろう。それは解かる。俺もこいつが嫌いだから。どこが気に入らないかといえば、それはもう何もかも、何処もかしこも気に入らない。

 邪魔だった。

 俺はその先を見たいのに、その向こうへ行きたいのに、そこにはいつも『こいつ』が立ちふさがっていた。

 …別に、こんな奴、無視しても良かったんだけど、何故かそれが出来なかった。それはもう、取れそうで取れない魚の骨のように俺の心に引っかかって、俺は始終苛立っていた。

 1つ解かっていたことはある。俺がこんなに苛立つのは、こいつがバカだからだ。

 こいつはなんにも解かっちゃいない。

 こいつが本当に望んで、こいつが本気で欲して、こいつが真実求めるものが、実はこいつの背中の遙か(つまり、俺の行く道の先の遙か)後ろにあるというのに、それが全然判っていない。

 たった一度でもいい。自分の後ろを見てみるだけで、こいつは自分が本当に見たいものが見られるのに。ほんの少し振り返ってみるだけなのに。それがこいつには全然解からないのだ。

 そこが、すごくバカ。

 そこが、すごくイライラする。

 なんにも知らないくせに。壬生のことも、太四老のことも、自分のことも、…俺のこともなんにも知らないくせに。なんにも知らないくせに。なのに、お前は泥に咲くあの花のように。

 真昼の睡蓮のように。
 物知らぬ睡蓮のように。

「ねえ、どうしてお前は…」

 やめた。俺の言葉なんて、こいつのコチコチの石頭じゃ解からない。どんな言葉も、絶対に通じない。それに、俺がこいつに教えてやらなきゃならない義理は無い。…たぶん、無いと思う。

 もう終わりにしよう。こいつに拘るのは。こいつに対する煮え切らないもの思いにはもう飽きた。こんな重いものを抱えていちゃ、狂のスピードについていけない。だから、もう捨てる。

 俺は選んだ。
 俺は狂と行く。だから、

 だから、辰伶、

 さあ、決着をつけよう。
 俺にとっても、おまえにとっても、きっとこれが最後。
 今度はあの時のように、中途半端に刃を止めたりはしない。

 あの時のように。


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