+・+ 吹雪様誕生日企画 +・+
雲より遥かな
-5-
・・ウ・・・ン
何故、吹雪様は俺にこのような行為をなさるのだろうか。考えても詮無きことを、思考してしまう。考えたところで答えなど得られるはずもないのに。何よりも俺は、答えなど欲してはいないのだ。むしろ、吹雪様の本心など知りたくは無い。
・・・ン―――・・・ハアッ・・
吹雪様のお気持ちがどうであれ、俺はこの関係を手放すことなどできないのだから。始まりが何だったのかとか、どうしてこうなったのかとか、そんなことはどうでもいい。今これを必要としているのは、俺なのだから。
・・・クゥッ・・・
肌を合わせれば、相手の何もかもが解かるなどというのは嘘だ。嘘と言って悪ければ、幻想だ。現に俺は吹雪様のことなど何も解からない。こんなにも近く在って、こんなにも深く侵蝕しあっているというのに、何も伝わってこない。
・・・ハッ・・・ア―――・・・
むしろ、肉の繋がりが無かった頃のほうが、今よりもずっと吹雪様のお心に触れていたような気がする。幼い昔に、吹雪様の舞姿に感動し、無邪気に憧れていたあの頃の気持ちが、今の俺にはもう思い出せない。もう、手の届かない遥かな過去。
―――・・・ヒッ・・・アア・・・
それでも関係を重ねるうちに解かったこともある。この行為は、吹雪様にとっては必要ではないのだ。求めているのは俺の方。この腕を手放せないのは俺。だから、知りたくなどないのだ。吹雪様が俺のことをどう思ってこのような行為に臨まれるのかなど。
・・・ハァッ・・・ア・・・・・・ぅ・・
俺が考えるのは……狂のことだ。あの土砂降りの日に、狂に恋していた自分を散々に思い知らされた。のしかかり力尽くで俺を貪ろうとする漢に恐怖を感じながら、しかし俺は拒めなかった。拒むべきだと解かっていたが、どこかで諦めていた。この漢に軽蔑されることは死にたいくらいに辛いと思いながら、同時にどうでもいいと思っていた。死ぬほど辛いといいつつも、最終的には死んだりしない自分をよく知っていたから。
・・ぅ・・・・
それに、どうあっても快楽は快楽なのだ。ましてや、好きな漢が望む行為を、どうして拒絶できるだろう。俺とてあの漢を望んでいたのではなかったか。だから俺の体は狂を受け入れ、開かれる悦びに打ち震えていたのではなかったか。
俺には父親の淫蕩な血が流れているのだ。
吹雪様の腕に抱かれながら、狂のことを想う。吹雪様の包み込むような愛撫を狂の腕と思い、注がれる熱に歓喜する。狂に荒々しく打ちつけられた蔑みを忘れて、他のものにすり替えてしまえばいい。もっと全然別の…例えば好き合う者同士の戯れであったのだと、この一時だけは俺の体に信じ込ませてやるのだ。
この愚行が己自身のみならず、吹雪様や狂をも穢しているということを、俺は承知している。しかし俺は彼らに詫びる気持ちなど全く無い。だって、そうだろう?
吹雪様。貴方は俺を、他の漢に抱かせる為に、この体を仕込み、慣れさせ、躾けたのでしょう?貴方にとって『先代』なる漢がどれほど重要人物かは知りません。俺に解かるのは、俺は貴方に売られたのだということだけです。
そして、狂。お前が俺を軽蔑するのは尤もだと思う。それでもお前からあんな扱いを受ける筋合いはないと思うのだが、違うか?漢に組み敷かれて反応する体が面白かったか?それでも俺はお前が好きで……抱かれたのに。
それでも俺は、吹雪様をお慕いしているのに。
フアッ・・アア―――ッ・・・ハア・・・ハア・・・・・
何て俺は愚かなのだろう。そして、どこまで醜悪なのだろう。どうしてこんな人間を……彼は選んだのだろう。
ほたるが俺に付き合おうと言ったのは、冗談でもなければその場の気まぐれでもなかった。遊園地でデートした次の日から、ほたるは1日も欠かさず俺の学校に迎えに来た。最初の日は、とにかく驚いた。ほたるは校門の門柱に凭れながら、俺が出てくるのをずっと待っていたのだ。
ほたるは狂と同じ学校だから、俺の学校とは駅を挟んで反対方向になる。しかも俺の方は駅から自転車を使わねばならないほど離れているのだ。対してほたるは徒歩だったから、簡単な距離とはとても言えない。この時間にほたるがここに居る為にはホームルームや、殊によったら最後の授業をサボらねば無理だろう。
嬉しいと思うよりも、俺は腹が立った。恋愛にうつつを抜かして、肝腎の学業を疎かにするなど以ての外だ。俺は何度もほたるに苦言したが、それをあの漢は何処吹く風で、全然悪びれたりはしなかった。その内に校門の前では飽き足らずに、校内にまで入ってきて、俺の教室まで迎えに来るようになった。
クラスメイトたちにはすっかり面白がられて、散々に囃したてられる毎日だ。校内新聞に『熱愛発覚・クラス公認?』という大見出しで、しかも写真入で記事が載った時には顔から火が出るかと思った。ご丁寧に『?』の部分はちょうど折りたたまれて隠れるようになっていた。いつからスポーツ新聞になったんだ…
もう、どうにでもしてくれという心境だ。俺とほたるは自転車に2人乗りして駅まで行き、一緒に電車に乗った。同じ方面だったが、ほたるの降りる駅は俺よりも3つ先だった。俺が先に降りて、ホームからほたるを見送った。そんなことを毎日繰り返していたら、いつの間にかそれが当たり前になっていた。そのうち、お好み焼き屋やハンバーガーショップなどのファーストフード店に寄り道までするようになって、今では俺の家で一緒に晩飯を食べることもある。
恋人同士というよりは、まるで親友のようだ。…少し違うな。ほたるには少し振り回されぎみで、そう、まるで我が儘な弟みたいだ。ほたるは狂と同じ学年だから、俺よりも1つ年下だ。だから余計にそう思うのかもしれない。
それでも俺達は兄弟でも親友でもなく、恋人として付き合っていた。休日ともなれば、ほたるとデートした。何度もキスをした。唇が軽く触れ合うだけのそれは、まるでママゴトのようだったけれど。
俺はそしらぬ顔で、ほたるの恋人役を演じていた。
・・―――・・ぅ・・・
どうしたのだろう。近頃は、ほたるのことばかり考えてしまう。吹雪様に抱かれて、狂のことで頭を一杯にしていても、いつの間にかほたるに意識を取られてしまう。こうしていても、ほたるの顔が脳裡にちらつく。
・・―――・・ぁる・・ぅ・・・
体は燃えるように熱いのに、心が冷えていく。カラカラに乾いて、胸に見えない穴が大きく穿たれる。快楽に溺れながら、心が苦痛を訴える。辛い。ほたるのことを考えると、辛くて消えてしまいたくなる。
「……ぁるぅ・・・ッ」
何故、ほたるが消せない。
音声ガイダンスに従って妄想して下さい。読み手のスキル次第で際限なくエロくなります(笑)
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