+・+ 末期の部屋 +・+

雲より遥かな
(吹雪様誕生日企画より)

-序-


 誰が悪いとか、何が間違っていたとか、そういう問題ではないのだ。

 正直に言えば、後悔していることなど山ほどある。愚かさ故に、愛する者を傷つけたこと。何よりも、己自身を貶めていたこと。今ではもう全てに決着がついて、全てが過去となっているのだが、しかしそれらの事実が消えるはずもなく、時折思い出したかのように俺の心臓を冷たく重い鉛に変えてしまう。もし、あの頃の俺がもっと賢明であったなら。或いは自身の痛みを直視していたなら。もしも、もしも俺が…

 後悔は多いが、しかしそれでも、あれがあの時の俺の精一杯の生き方だった。愚かで弱くて間違いばかり積み重ねて、自暴自棄になったこともあった。それでも、あの頃はあんな風にしか生きられなかった。

「辰伶」

 そして俺は今、一番大切な相手と居る。彼は俺に『自分を責めなくていい』と言ってくれた。

「辰伶、愛してる」

 俺の傷も痛みもすべて愛していると、そう言って抱きしめてくれた。だから俺は、疵だらけの過去を抱いて生きる。綺麗な過去ではないけれど、それでも彼と共有する大事な思い出だから。

 彼が愛してくれた過去だから。


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