分水嶺
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表面的にはすっかり平穏になった壬生の郷で、お気楽人生を満喫中の自称勝ち組元太四老遊庵は、今日も今日とてふらふらと遊び歩いていた。ヒマに見えてこの人物、新生壬生の郷では知らぬ者のないゴクツブシである。
「さ〜て、本日の献立は…」
心眼で各家の夕餉の支度の様子を覗き見る。優れた能力だがろくなことに使わない。それこそが遊庵のポリシーだ。
「へえ、栗ご飯と……お、サンマじゃねえか。よし、今晩は秋の味覚を堪能するとしますか」
このように夕餉を御馳走になる家を(勝手に)決めて訪問するのが遊庵の日常だ。遊庵は先ぶれも出さず、手土産すら持たずに気楽に歩いていく。それが通用するあたり、遊庵は自分で思っている以上に他人から好かれているのだ。
やがて遊庵の軽さとは全く相容れない堅牢な塀と荘厳な門構えの屋敷についた。門番に軽く挨拶して入っていく。お馴染の家だ。勝手知ったる他人の家。遊庵は案内も許可も得ずに上がり込んだ。
「邪魔するぜ」
「お待ちしてました」
この屋敷の当主である辰伶は、突然の訪問客である遊庵に動じることもなく、彼の隣に準備されている膳の席に招いた。
「いつも思うんだけどよ、何で俺が来ることが解るんだ? ひょっとして、いつ来てもいいように毎日用意してくれてるとか?」
「まさか」
「だよなあ」
辰伶は壬生の郷の内乱後に壬生一族最大勢力となった無明歳刑流の惣領である。その権勢の前では遊庵など吹けば飛ぶような存在だ。以前の身分は遊庵が太四老で、辰伶はその下の五曜星だったが、それを気にする遊庵でもないし、逆転した立場を誇示する辰伶でもない。
「そろそろ来る頃だと思ったので」
「いい勘してるじゃねえか」
「というのは冗談で」
辰伶は往時の村正のごとく、柔和に微笑んだ。
「遊庵様がサンマを食べたがっていると聞いて用意させました」
遊庵の意思で選んで訪れたつもりだったが、まんまとおびきよせられていたのだ。戦闘能力では遊庵も辰伶に負ける気はしないが、謀では全く歯が立たない。最近は辰伶のことを本気で怖いと思うこともある。
「…誰から聞いたんだよ」
「今の壬生で俺の耳に入らぬことなどありませんよ」
ある意味これは村正のサトリ能力よりも怖い。辰伶は屋敷に居ながらにして、遊庵の日々の食生活事情というどうでもいいレベルの情報まで入手できるのだ。しかも、遊庵はサンマが食べたいなどと、兄弟身内にすら喋っていない。それを当たり前に入手できる情報網が怖い。当たり前と言わせる支配力が怖い。何よりもその作り笑いが怖い。
こいつは村正よりもひしぎよりも吹雪よりも凶悪だと遊庵は思う。なのに誰も彼もが辰伶の優しげな作り笑いに騙されているのだ。美形は得である。
「さあ、せっかくの焼きたてが冷めない内にお召し上がり下さい」
「そうだな。いただきまーす」
怖いけれど、サンマは美味いので遊庵は気にしなかった。これが遊庵の強さの秘訣だ。権力者が怖くて庵一家はやってられない。
「なんだかやつれたんじゃねえか?何か悩みでもあるのかよ」
「実は遊庵様にお願いがあります」
「養子の件か?」
「それもあります」
以前から辰伶は遊庵の兄の子供を1人、跡取りとして養子に貰いたいと申し入れていた。辰伶の跡取りということは、無明歳刑流本家の惣領息子となるということで、将来は壬生の実質的な支配者になるということだ。これ以上ないオイシイ話だが、権力に興味がなく、権力争いには断じて関わりたくない遊庵及び庵一家はきっぱりと断り続けている。
「養子なら自分の親戚筋から貰えばいいじゃねえか」
「残念ながら一門庶家には俺よりも若い世代がいないんです」
「そういえば、てめえらが最後の世代だったな。壬生一族同士の子供は」
壬生一族に子供が生まれなくなったことも、吹雪たちが非道に走った一因だった。子供が生まれ無くなれば、いずれ一族は滅びる。それを回避せんが為に数々の悲劇を招いたのだった。
「てめえが作ればいいじゃねえか。できねえってことねえだろう」
壬生一族同士では子供は生まれないが、壬生の外の人間とであれば子を成すことができる。それは遊庵の兄である庵里が実証済みだ。
辰伶はうんざりと表情を曇らせた。
「近頃はやたらとあの手この手で女性が送り込まれくるのが困りものだ。壬生一族同士では子供ができないことは明白なのに」
「自慢かよ」
「羨ましいですか?紹介しましょうか?」
「いらねえよ!」
「無明歳刑流本家と縁を結びたいのは解りますが、だったら間に然るべき人を立てて正式に婚姻の申し入れをしてくるのが筋でしょう」
「その正式な申し入れをお前が断りまくってるから、そういう手段に出るんじゃねえの?」
「なるほど。気づきませんでした」
辰伶は真面目に考え込んだ。
「それでも子供が生まれないなら意味がない。紅虎からの紹介なら考える余地もあるが…」
紅虎とは徳川秀忠。言わずと知れた天下人だ。辰伶の数少ない外の世界の知り合いである。辰伶と紅虎はその立場からよく連絡を取り合っているのだが、意外に通じるものもあって私的にも誼を結んでいる。毎年ミカンや鮭が送られてくるぐらいの仲だ。
「なんか政略結婚くせえな。そんな会ったこともねえ相手と大丈夫か?」
「問題ありません。俺はもともとそういう家の生まれの、そういう育ちです。相手もそういう相手です」
「そいうとこだぞ。灯がお前を嫌うのは」
もちろん辰伶も知っている。しかし、好きな相手に拘ることの方が、辰伶には理解できない。跡取りを得ることは嫡子の一番重要な義務で、家を存続させることが当主の最優先事項だ。その責務を果たすことと恋愛を成就させることが同じであることの必然性が解らないのだ。
辰伶がそんな考えである限り、灯とは平行線だ。しかし嘘はつけない。嘘をついて交友を結んでも不誠実なだけな気がする。だから灯に嫌われるのは仕方がないことだと割り切っている。
今は辰伶が睨みをきかせているので壬生の郷は安定している。だがそれは酷く脆弱なものだ。なにしろ辰伶には跡取りがいない。将来、辰伶の後継を巡る争いが起きるのは必然だ。何が切っ掛けに跡目争いが勃発するか解らない。それを未然に防ぐためには、辰伶は次代の惣領を明確にする必要がある。
辰伶としては自分の血縁に拘るつもりはない。ちょうど良い人物がいれば一門の内外問わず誰でもいい。何なら樹海の民でも構わない。樹海の民とは壬生再臨計画で造られた子供たちだ。過去には「造られしもの」とか「できそこない」とも呼ばれていたが、その名称は不適当だということで今では「樹海の民」と呼ばれている。しかし呼称が変わったところで蔑視がなくなるわけでなく、名門を誇る無明歳刑流の一門庶家衆が惣領として認めはしないのだ。
「家」にとって重要なのは「血」ではなく「名」だ。「家名」を残すことが何よりも大事であり、「家系」は庶家衆の承認を得るための最も有効な要因の1つに過ぎない。家名を守っていくには庶家衆の支えが必要で、彼らの意向を無視することは決してできないのだ。
「いくら俺が惣領でも、一門衆が納得しない者を跡取りにはできないからな。そんなことをしたら内乱状態に逆戻りだ」
「え?ちょっと待てよ。俺の兄貴の子はいいのかよ。自慢じゃねえがうちは名家でもねえし、母親は外の人間だぞ」
「見縊ってはいけません。近年、庵家の家格は爆上がりしたんですよ」
「マジかよ。信じられねー」
「2代に渡って太四老を輩出したのが大きな要因ですね」
ヒュ〜と遊庵は下手くそな口笛を吹いた。
「俺と母ちゃんのおかげかよ。俺、スゲーじゃん」
「それと、先代紅の王亡き後の内乱で相当数の名家が消滅してしまいましたから。空白になった分、繰り上がりました」
遊庵の箸が止まった。ゴクリと栗ご飯を嚥下する。遊庵の隣で淡々と飯を食っている人物こそ、相当数の名家をぶっ潰した張本人である。
今でこそ平穏だが、先代紅の王が亡くなった後の壬生の郷は内乱で激しく荒れた。力のある者は野心に倒れ、無いものは無力に死んでいった。それを収めるのに大量の血を流したのが辰伶で、その結果、彼は多くの支持者を得たが、同時に何人かの友人が離れていった。それで平然としていられるほど、当時の辰伶は冷徹ではなく、陰で悩み苦しんでいた。遊庵はそんな辰伶のたった1人の話し相手だった。何度も挫折しかけながら辰伶が壬生の復興を成し遂げたのは、遊庵の精神的な支えがあったからだ。それが今でもこうして続いている。
「庵家の子息なら誰も文句いいません。だから下さい」
「ダ〜メ。政略結婚でも何でもしやがれ。貧乏クジ野郎」
遊庵の率直な言葉を聴いていると辰伶は心が軽くなる。運命だの使命だの、重苦しいモンは蹴り飛ばせと、遊庵の軽快な不屈さが辰伶をかなり救ってくれている。
「それにしても、なかなか外の人間と婚姻する者が出ないな。ちっとも子供が増えない」
「まだ偏見あるからなあ。そもそも虫けらとか言って蔑んでたんだぜ。お前も」
「思い出させないでください。これでも恥じてるんです」
昔は辰伶も壬生一族を神と疑わず、外の人間たちなど虫けら同然に思っていた。思い出すと、傲慢だった自分が恥ずかしい。
「偏見を無くしていかないとダメか。誰か影響力のある有名人に広告塔になって欲しいものだな。時人様とアキラなんておあつらえ向きなんだが。結婚式を壬生一族挙げて大々的に…」
「てめえ、他人の晴れ舞台を政治に利用すんじゃねえよ。そういう言動が皆から嫌われるんだぞ」
「確かに時人様に悪いですね。やっぱり俺が率先して結婚するしかないか。紅虎に適当な相手を見繕ってもらって」
「だから、そういうとこだぞ」
「知ってます。冗談です」
冗談にならないかもしれないと辰伶は思う。壬生の平穏の為に必要なら、政略結婚ぐらい大したことではない。もともと辰伶にとっては普通のことだ。躊躇う方がおかしい。
ほたるの顔が辰伶の脳裏に浮かんだ。ほたるも灯と同じ意見だろうか。きっと同じだろうと辰伶は思う。妾腹であることを理由に実の父親から命を狙われた彼なら、なおさら赦せないに違いない。またほたるに嫌われてしまうだろうと思うと、辰伶は憂鬱になった。
今に始まったことではない。昔からほたるとはいがみ合う仲だった。お前のことが嫌いだと言葉や態度で何度も宣告された。今さらだ。なのに割り切れない。いつまでたっても、ほたるに嫌われる度に、心が塞ぐ。
名前を呼ばれるのも嫌なくらい嫌われていたなんて。面と向かって『お前の口から聞きたくない』と言われてから、辰伶はほたるの名前を呼んでいない。ほたるがいない場所でも、その名を口にすることができないでいる。
「ほたるのこと考えてただろ」
「何で解ったんですか?」
「俺に頼みって、そもそもそれ関係だろ」
「あいつを壬生の郷から出て行かせてください」
遊庵は渋面をつくった。
「ヤダ。あいつ、めんどくせーんだもん」
「師匠じゃないですか。そもそも保護者だし」
「てめえだって実の兄じゃねえか」
「育てたのは遊庵様です」
「あいつが俺のいうこと、素直に聞くと思うか?」
「俺の言うことはもっと聞きません」
辰伶はゆっくりと茶を飲んだ。旬の食材を美しく調えられた膳であるというのに、あまり箸が進んでいない様子だ。
「ほたると死合して負けたせいか?」
「…そうです」
「あれは…ちとまずかったな」
「失策でした」
ほたるが辰伶の異母弟であることは、今では秘密ではない。無明歳刑流本家の血を引く彼は辰伶の対抗に十分成り得る。無明歳刑流の弱体化や乗っ取りを企む輩が神輿として担ぎ上げるのに、これ以上適した人物はいない。既に某の家では人が集まり、ほたるを利用しようと画策していることを、辰伶は掴んでいた。
「あいつが外の世界に出ていて不在の間に、俺が不当な手段で無明歳刑流惣領の座を手に入れたとして、惣領には俺よりも相応しい者がなるべきだと主張するようです」
「お前は元から跡取りだって、周りから公認されてきただろ。当主になったのも、ずっと昔だし。不当じゃねえじゃねえか。普通にお前の方が適任だろ」
「あいつは死合で俺に勝ちましたからね。俺よりも優れていると主張できるかと。俺を排除したい者にとっては、如何に俺に難癖をつけることができるかが重要なので」
「そういうインチキくせえ大義名分が俺は大嫌いなんだ。だから権力争いって嫌なんだよ」
遊庵は短めの頭髪を両手でワシャワシャと掻き回した。
「それもこれも、俺に跡取りがいないから、付け入る隙を彼らに与えてしまっているのです。つまりは養子をくれない遊庵様の責任ということで、責任もってあいつを壬生から逃がしてやってください。一門衆の中には争乱の種になる前に殺してしまえという意見も出ています」
ほたるよりも強い者など早々いない。無明歳刑流の一門衆がほたるの暗殺を企てたとしても、本当は心配する必要ないのだ。だが、辰伶は思う。刺客に命を脅かされる日々を、ほたるには2度と味わってほしくない。父親に続いて兄からも命を狙われたなどと思われたくない。
嫌われるのは仕方ないが、信頼を裏切りたくは無かった。
「あ、辰伶様だ!」
真っ直ぐな親愛の眼差しで駆け寄ってくる人々。亡き五曜星の長、太白が可愛がっていた子供たちだ。成長しても、変わらず辰伶を慕ってくれる。
この一画は樹海の民たちが暮らしている。樹海の民といっても呼称だけのことで、今は樹海に住んでいない。かつて樹海の民たちは、壬生一族からは下等民と蔑まれ、生活の場も樹海に押し込められていたが、辰伶の庇護の下、壬生の郷の中で生活している。
辰伶はこの子供たちを一度は外の世界へ送り出した。彼らを可愛がっていた太白は元は外の人間であったから、外の世界の方がより良く暮らしていけるのではないかと思ったのだ。ところが外の世界では、彼らの異形の姿は酷く忌み嫌われた。差別や迫害は壬生一族のそれを遥かに上回るもので、辰伶は慌てて皆を呼び戻した。良かれと思ったことが、上手くいかないものである。
そんな失敗をしたにも関わらず、誰も辰伶に恨み言をいわなかった。却って慰められてしまった。
「辰伶様、お茶は如何ですか?今日は小さい子たちがお菓子を作ったんです。辰伶様のお口に合うかどうかわかりませんけど」
「ありがとう」
良いこともあった。
名門貴族で権力者の辰伶が親しく交流することで垣根が低くなったのか、壬生一族に彼らの存在が浸透しつつあった。彼らと普通に付き合っている者は決して少なくない。樹海の民は壬生の郷の構成員として着実に馴染んできていた。
辰伶のこの行いは、弱者に対する慈悲深いものであると称賛する者と、宣伝目的の偽善的行為だと悪罵する者と両極端だ。為政者とはそういうものだ。何をやっても、やらなくても、良くも悪くも言われる。辰伶の本心は亡き戦友の志を継いだだけのことで、ことさら慈悲の心も無ければ、宣伝する気もない。
素朴で小さな菓子が2つ、朴の葉の皿に乗せられて差し出された。形は歪で大きさも不揃いだが、それでも一番見栄えの良いものを選んでくれたらしい。添えられた楊枝が精いっぱい洒落ている。
「美味いな」
菓子を作った子供だろうか。嬉し恥ずかしと、年長者の陰から辰伶を覗き見ている。微笑みかけると隠れてしまった。
辰伶は太白の遺志を継いで、この子供たちをただ守りたかっただけだった。しかし彼らは辰伶に恩を返さんと、無明歳刑流と敵対する勢力との争いに身を投じていった。そして樹海の民は半分よりも少なくなってしまった。口さがない者は、辰伶が彼らを利用したと罵った。
御馳走を謝して辰伶は屋敷に帰った。帰りの道すがら、とりとめのない思考に耽る。外の世界に憧れていた。そこにはきっと見たことのないような美しいものがあると思っていた。辰伶が思っているほど美しい世界じゃないといったのはほたるだ。それでもその目で見ろと彼は言った。
(そうだな。美しくはなかった)
実際に見たわけではないが、樹海の民たちが外の世界で受けた仕打ちを見れば解る。きっと変わらないのだ。外の世界も、壬生の郷も、美しくもあり、汚くもあり、優しくもあり、残酷でもある。それでも人の在り様に理想を抱いてしまうのを、辰伶は憂鬱に思った。
まだ、外の世界に行くことに憧れている。叶えようのない望みとなってしまった今でも。壬生の郷の平穏は辰伶の存在あってのことで、辰伶がいなくなってしまったら忽ち内乱状態に戻ってしまう。力による支配以外の、新しい価値観による新しい時代が来るまで、辰伶は壬生を離れらない。
(本当にそんな時代が来るんだろうか)
それはきっと素晴らしく美しい時代に違いない。誰も見たことないような美しい時代がきっと…
ああ、これでは子供の頃と同じだ。辰伶は自嘲する。外の世界に憧れるのと全く同じに、無邪気に美しい時代を夢想している。全く進歩が無い。
(そんな時代が来たとして、俺はその世界で生きていけるのだろうか)
生きることが許されるのだろうか。美しい時代には相応しくなく、両手は血に塗れている。同族を殺戮した罪に穢れている。恨みも多く買っているだろう。
仕方がなかったという言葉を辰伶は好まない。でも、仕方がなかったのだ。秩序が崩壊した壬生の郷で、無明歳刑流本家の当主として庶家を統率するには、惣領としての支配力を強化するしかなかった。嫡流本家に力が無ければ傍流は黙っていない。本家から独立するか、本家を乗っ取るか、喰うか喰われるかの世界だ。力関係なんて簡単に逆転する。舐められるわけにはいかないのだ。
辰伶の力を削ごうとする者たちは熒惑派として一味同心した。虎視眈々と狙っている親戚連中に隙を見せることはできない。寛大に振る舞えば、辰伶を弱腰と侮って図に乗るのが彼らだ。辰伶は熒惑派を容赦なく殲滅した。反対派を根こそぎ消し去ることで無明歳刑流は早期に安定したのだ。それが今の壬生の平穏に繋がっている。
仕方がなかった。けれど血を流し過ぎた。
だから今の平穏が続くことを誰よりも願っていた。これ以上壬生一族の血が流れて欲しくない。そんなことを、今さら辰伶が言っても誰も信じてくれないだろうけれど。