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水の中で見る夢

-9-


 1つだけ言えるのは、『生きる』ということは、『強い』ということだ。ほたるはそう確信した。

 先程まで人だったモノが2つ。黒い炭の塊が転がっている。ほたるはそれを無感動に眺めた。自らが焼き殺したソレに対して、何の感慨も浮かばない。ソレは弱いモノだから。弱いものには興味が無い。

 ほたるは振り返った。辰伶の従者が為す術も無くただ成り行きを見守っていた。その姿は少し可笑しく思えた。ほたるが刀を拾って近づくと、怯えたように顔を強張らせた。

「はい」

 そう言って、拝借した刀を返そうと突き出すが、従者は後ずさり、受け取ろうとしない。

「いらないの?もらっていい?」

 返事は無い。その沈黙を、ほたるは自分に都合良く解釈した。

「ありがと。じゃあね」

 立ち去ろうとして、ふと、ほたるは足を止めた。振り返って、辰伶の従者に言った。

「シンレイに伝えて」

 辰伶。あの人のホントウの息子。

「……」

 初めて見た異母兄は、あの年齢にして既に大人の社会に属する人間だった。自然なこなしで他人を使い、従わせる。あれが選ばれた人間というものなのだろうか。

 ああ、そうではなくて。シンレイは、母を失ったほたるに手を差し伸べてくれた唯一人の人だった。煌く銀色の髪が、虹のようにキレイだった。

「……」

 シンレイのことを考えると、胸の辺りに、重くて、苦しくて、そして何か美しいものが渦を巻く。それは痛みとなってほたるを酷く責めたてる。その辛さを、ほたるは胸元で強く握り締めた。

 黙りこんで一向に続きを言おうとしないほたるに、辰伶の従者は困って問いかけた。

「辰伶様に伝言とは?」

 促されて、ようやくほたるは口を開いた。

「…なんだっけ?」

 完全に間を外されて、辰伶の従者は茫然と立ち尽くした。

「オレは強くなる。ただ、それだけ」

 もう、何もいらない。誰も必要ない。去っていくほたるは、それきり振り返ることはなかった。


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