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水の中で見る夢

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 鷹狩から帰った辰伶は、出掛けに拾った子供のことを尋ねたが、屋敷の者は誰もそんな子供は知らないと答えた。子供を預けて送らせた従者は、急に辰伶の父親の直下に配属されることになって、それきり顔を合わすことも無かったので、長らく事情を聞けないでいた。

 それから何年も経って、ふとした折に、辰伶はかつての自分の従者と少し言葉を交わす機会を得た。その時に思い出して聞いてみると、例の子供は屋敷に着く前に、馬上で死んだといった。背中の刀傷が予想以上に酷いもので、それがもとで亡くなったのだと言う事だった。

「死の穢れを屋敷に持ち込むことは出来ませぬので、近くの墓地の片隅に埋めました。…昔のことですので、墓の位置もはっきり覚えておりません」

「…そうか」

 辰伶は、ほんの一時だけ自分の軌道を横切った儚い命を悼んで、瞳を閉じた。




 そして時折、密かに想う。

 虹色に輝く金の髪と、琥珀色の瞳の子供のことを。





終わり

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