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水の中で見る夢
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暗闇の中で、何日が過ぎたのだろうか。ほたるは漸く自分というものを認識した。
それまで、一切が苦しみだった。身体に回った毒が発熱と悪寒を引き起こし、眠りは悪夢をもたらした。その内容は覚えていないが、厭な感触だけが頭の奥に残っている。
燃え盛る炎の中から逃げ延びたほたるは、次第に意識が朦朧としていくのを止められず、ついには地に膝を付いた。一度は治まる様子をみせた毒の効力が、再びその威力を盛り返し、更なる責め苦でもってほたるの身体を侵したのだ。
意識を喰らい尽くされる前に、ほたるは身を隠す場所を求めて森に入った。そして、それ以降の記憶が無い。どこか穴の中に転がり落ちたような気がする。
毒の苦しみの中で、時折、現実が訪れた。苦しさのあまり、ほたるは目の前に垂れ下がる木だか草だかの根を引きちぎって噛み締めた。すると少し楽になったので、本能的にそれが毒消しであると気づいて、その苦い汁を飲み下した。
そして、ほたるが自身の空腹に気づいた時、毒は身体からほぼ抜けていた。
ほたるは湿った暗闇から這い出た。ほたるが毒と戦っていた場所は楠の巨木のウロの中だった。何日かぶりの外は、雨が降っていた。
発熱が続いた後だったので、喉がひどく渇いていた。ほたるは雨でできた水溜りの水をすくって飲んだ。そして、落ちていた得体のしれない木の実を齧ってみた。口の中に渋みが広がるばかりだが、食べられないことはないので食べた。
「かあさま…」
ほたるは歩きだした。草履はとっくに無くなっていたので裸足だった。蒼い草の上や、ぬかるんで柔らかい泥の上を選んで歩いた。
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