予兆
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「というわけで、今日は愛妻弁当が無いわけ……デス」
「…………サイテー」
床に正座する螢惑。腕を組み、仁王立ちで見下ろす灯。通称『尋問室』で事の次第を全て白状させられた螢惑は灯から軽蔑の籠った視線を浴びせられていた。その様子を少し離れてアキラが見ている。
「相手が恋人でも、同意のないセックスは犯罪よ。何か弁明は、このDV男」
「……反省してマス」
「あんた、そういえば前も辰伶を殴ってたわね。あの時はアタシが悪いと思ったけど、まさか日常的に暴力振るってるなんてことないでしょうね」
「…………」
「何で沈黙してるの?」
「……日常的にはないけど……」
「たまにはあるってかっ!天誅!」
灯の鉄拳が螢惑の頬に炸裂した。あ、辰伶とお揃いになった、と、そんなことを思いながら螢惑は宙を舞った。
螢惑の暴力は辰伶に対する独占欲に根差したものだ。だから暴力を振るった後で冷静さを取り戻した螢惑は酷い自己嫌悪に陥る。しかし今回は少し違うのだ。暴力も無理矢理もダメだと思うし、そこは反省するが、自分の怒りは正しかったという自信がある。これは譲れない。
「今回悪かったのは辰伶の方だから、辰伶も反省すべきだと思う」
辰伶の対応は決して上手くはなかったが、悪かったと一刀両断されては気の毒だとアキラは思う。脅迫に屈してしまったのは、螢惑を思ってのことでもあるはずだ。2人の関係が明るみになってしまったら、螢惑があの家にいられなくなることは想像に難くない。それを言うと、螢惑は眉を顰めた。
「それがダメなんだよ。俺のことを思うなら、あの場は辰伶自身を大事にしなきゃ。そうでしょ」
「ほたる……あんたの言う通りだわ。あんたは正しい」
灯の賛同を得て調子に乗った螢惑はエッヘンと偉そうに胸を反らせた。アキラはイラッとした。
「どちらが正しいか、お2人でよく話し合うことですね。まあ、お弁当を作ってもらえないくらい機嫌を損ねてしまったようですから、きちんと話し合いができればいいですけど」
「違うよ。辰伶は機嫌が悪くて作ってくれなかったんじゃなくて、ベッドから起き上がれなくて作れなかったんだから」
「翌朝、足腰立たなくなるくらい無理させたってことですか」
「そこは反省してる」
「天誅!」
灯の鉄拳制裁が再び炸裂した。