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梵天丸に会う
辰伶に声を掛けたのは、梵天丸という隻眼の大漢だった。
「その『先輩』というのはやめて下さい」
梵天丸は辰伶よりも年上である。実は辰伶と同じ壬生大学の経済学部の3年生だ。むしろ辰伶の先輩に当たる。ただし、『俺はまだ青春していたいんだ』とか何とか言って何度も留年を繰り返しているので、辰伶よりも何歳年上なのか知らない。
何故、梵天丸が辰伶のことを『先輩』と呼ぶのか。実はこの漢がほたるの知り合いであるところから説明が始まる。
以前、ほたるが友人達数名を家に連れてきたことがある。辰伶はほたるの通う高校の卒業生なので、ほたるの同級生たちは辰伶を口々に『辰伶先輩』と呼んだ。その時のメンバーの中にこの梵天丸もいて、以来彼はからかい半分に辰伶のことを『辰伶先輩』と呼ぶのである。
一体どういう経緯でほたるがこの漢と知り合いになったのか、辰伶は知らない。ほたるのクラスメイトの狂という漢を介してのことらしい。というのか、この狂という漢を中心として仲間が集まっているようで、ほたるはその内の1人であるという感じがする。
「まあ、いいじゃんよ。辰伶セ・ン・パ・イ」
辰伶は梵天丸に背を向けると、さっさと来た道を戻り出した。
「おいおい。気の短けー奴だな。こっちは人に頼まれて、お前さんをずーっと待ってたんだぜえ?」
辰伶は足を止めて振り向いた。
「ほたるか?」
「ほらよ。お前にこいつを渡せってさ」
梵天丸は辰伶に一通の封書を渡した。開けると中からメモが一枚と、切符が出てきた。
『ハズレ。やーい。やーい』
「何て書いてあったんだ?」
横から覗き込んだ梵天丸がそのメモの内容を見て唖然とし、その後に激怒した。
「くっそーっ!ほたるの奴っ。この俺様をこんなくだらん用で呼びつけやがって!」
獣のように吼えたてる隣の漢に、辰伶は憐憫の眼差しを送った。辰伶が学校に来なかった場合を思うと、尚一層、この漢が憐れでならなかった。
封筒に入っていた切符の金額と、先ほどコインロッカーで見つけた切符の金額から推測し直すと、ほたるが以前住んでいたアパートが正解であったようだ。
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