18: 使命
(現代パラレル)


 前から辰伶に言おうと思ってたことがある。

「あのさ」
「何だ?螢惑」

 ずっと前からずっと思ってたんだけどずっと言わなかったのは、言う前から辰伶の答えが想像できてたから。

 だから、最初っから全然期待なんかしてなかった。
 でも、何となく言うだけ言ってみた。

「辰伶もピアスしてみない?」
「嫌だ」

 やっぱりね。

「何で俺がピアスなんかせねばならん」
「似合うと思うんだよね」
「親からもらった身体に傷をつけるなど…」

 そこまで言って辰伶は、ハタと口を噤んだ。

「……すまない」
「……」

 何で謝るの?とは訊かない。辰伶が謝る理由なんて解ってるし。解ってるから、これをネタにして、辰伶を追い詰めてやることにする。

「ふうん。親から貰った大事な身体に傷つけるのは、けしからないって?悪かったね。俺、こんなに一杯傷つけちゃって」

 大袈裟に髪を掻き揚げて、ピアスだらけの耳を辰伶に見せ付けてやる。俺の耳、左右両方合わせて10コもピアス付けてるからね。

「…単なる慣用句のようなもので深い意味は無かった。俺はピアスに興味ないから…」
「だったらストレートにそう言えばいいじゃない」
「……」

 身体に傷つけるのがダメなら、ねえ、心に傷つけさせてよ。


 久々にムカついたから、辰伶にイヤミ言って虐めちゃった。ああ、スッキリした。ゴメンね。

 別にさ、辰伶が『親からもらった身体に…』とか言ったことなんて、俺は何とも思ってないんだけど。

 辰伶と俺は異母兄弟で、辰伶は本妻の息子で、俺は愛人の息子。俺は不要な存在として母親共々捨てられた。俺は親から貰った身体を大事に思うほど、親に…父親に大事にされなかった。

 辰伶は大事な跡取り息子。多分、大事にされたんじゃないの?大事にされたら大事だと思うのは当然だよね。大事にされなかった俺が大事に思えないのと同じで。

 だから、辰伶が『親からもらった身体に…』とか言うのはしょうがない。しょうがないことなんか、いちいち気にしない。

 俺がムカついたのは、辰伶が謝ったこと。謝るのは余計なんだよ。おまえ、自分が大事にされて育ったこと、俺に対してすまないと思ったでしょ。それがムカつくんだよ。

 たまにだけど、辰伶は俺に対してまるで壊れ物を扱うみたいに臆病になる。それってやっぱり俺に対して負い目を持ってるから?俺が大嫌いな父親を、お前はそれでも大事に思っていることを、俺に対して悪いと思ってるから?

 言っとくけど、同情は優越感の産物なんて、そんなどこかで聞いたような薄っぺらい理屈振り回してるんじゃない。俺、そこまでガキじゃないから。

 そりゃ、ね、昔は辰伶のこと大嫌いだった。俺を捨てた父親が憎くて、大事にされてる異母兄の辰伶を恨んだ。自分で言うのも何だけど、やっぱりヒガミってあったと思うよ。だって、それくらい俺と辰伶は全然違ってたから。でもそれはとっくに昔のこと。

 あのね、俺は辰伶が好き。すごく好き。

 俺のこと傷つけないように、辰伶がすごく気を使ってること、俺は知ってる。でもそれって余計なお世話。弟を守るのが兄の使命みたいな感じで来られると、すごくムカつく。守ってもらうなんてウザいだけ。

 だって俺は、辰伶のことが好きだから。もっと傷つけ合うくらいに、心をぶつけてくれたっていいじゃない。

 辰伶はそう思わない?


 そんな出来事が何日か前にあったけど、どーでもいいことだったから、正直いって俺は忘れてた。でも辰伶はそうじゃなかったみたいで、こんなことを言い出した。

「螢惑、買い物に付き合ってくれないか?」
「どこいくの?」
「ピアスを選んで貰おうと思って…」
「……」

 えーっと…

「どんなのが良いのか解らないし、何処で耳に穴を開けるのか知らないし……お前が紹介してくれたら、と……」

 俺、呆れちゃったけど、これって呆れていい場面だよね。

「…いいよ、無理しなくても」
「む、無理などしとらんっ」

 嘘ばっかり。いかにも『覚悟決めてきました』みたいな顔してるくせに。真面目は辰伶の取り得だけど、真面目すぎるのも毒だと思う。そんな風に出られたら、何か俺、悪者じゃない?お前の真っ直ぐさって、キレイ過ぎて嫌味だ。

 お前って、俺が欲しいって言ったら、命だってくれちゃいそうに見える。それって反則。俺はもう、お前のこと赦すしかないじゃない。…好きになるしかないじゃない。

 ああ、ムカつく。俺ばっか、好きみたい。

 でも、あれから5日くらい経ってるけど、その間、辰伶はずっとあのこと思い悩んでたってことだよね。俺は忘れちゃってたけど、辰伶はずっと俺のことで頭が一杯だったってことだよね。

 だったらいいや。

「ピアスの穴、俺が開けてもいい?」

 せっかくだから、俺に傷つけさせてよ。いいでしょ、これくらい。

「…え」

 あ、すごく不審な顔。俺、自分で十個も開けてるから上手いのになあ…。

「なんてね。辰伶にピアスは似合わないよ」

 …なんてね。好きだよ。


 おわり

 どこが使命なんだかって内容ですが、最初は指名な感じの話で書いてたはずが、何か軸がブレてしまったというか、どうしてこうなったというか、もう直せないのですみません。許して下さい。
実はこの2人は『同居シリーズ』の原型。

05/7/6