11:異母兄弟
あいつはズルイんだよ。
誰だってタテマエとホンネがあるのに、あいつはタテマエの部分しか見ない。
あいつが他人のタテマエを頭から信じちゃうのは、そういう人の汚い部分を見たくないから。キレイゴトが大好きだから。
だから、汚いものを見ちゃいそうな気配がしたら、さっと目を閉じちゃうわけ。そっぽ向いたりして、視界に入れないようにしたりね。
異母弟の存在を知りもしないのも、多分、それと一緒。あいつの親父の汚点そのものであるオレなんて、もうほとんど脊椎反射で避けてるんじゃないの?
…いいけどね。別に。
その上、あいつはバカだから。
フツーさ、ちょっと生きれば、解かることなんだけどね。この世が綺麗なものばかりじゃないってこと。むしろ、汚いものだらけだってこと。
ほら、あいつ、バカだし。ズルイから。
一度信じちゃうと、その人がどんなに怪しい素振りしても、意識から追い出しちゃうみたい。それとか、自分を捻じ曲げて、ムリヤリ自分を騙しちゃったり。だからいつまで経っても解かんないんだよ。自分を曲げたり、騙したりすることばっか上手くなっちゃって…
あんなんじゃ、いつか他人にいいように利用されて、利用されたことにも気づかないで、切り捨てられるに決まってるよ。
心配?まさか。なんでオレがあいつのことなんか心配しなきゃいけないの?心配なんかしてない。あのバカが誰に騙されようと、誰に利用されようと、そういうの、自業自得っていうんでしょ。オレには損も得もないし。関係ないよ。あいつのことなんか、全然、気にしてない。心配なんてする訳ない。それ、絶対に無いから。
…ちょっと、ムカつくけどね。あいつがバカなのもムカつくけど、そのバカが想像通りにバカなのが、余計にムカつく。オレまでバカにされてるみたいじゃない。この理屈、解かるよね。え?解かんない?何で?
小さな嘘のうちに気づけばいいのに。きっとあいつは小さな嘘も自分でどんどん大きくしちゃって、どうにもならなくなってから、やっと気づくんだよ。
「そしたら辰伶、どうするのかな…」
その時オレは、あいつに向かって何て言うんだろう。ざまーないねと、手を叩くのかな。ほらみなよと、嘲うのかな。
それともやっぱり胸が痛くなるんだろうか。…今みたいに。
おわり
互いに兄弟と知っていることを知らなかった頃。
05/4/27