07:予定調和
各々のモナドの間には何の相互作用も存しないにも拘らず、恰も相互に影響しあって見えるのは、各々のモナドがそれぞれの立場から宇宙を反映するよう、神が予め定めた結果である。
また、その宇宙は、神が創造する以上、あらゆる可能性の中でも最善の現実世界である。――ライプニッツ
簡単に言ってしまえば、俺たちの生きるこの世界は、うまく出来ているということだ。どれほど悪と矛盾を抱えた不完全な世界であろうとも、それでも一番マシな状態なのだという意味だ。要約すると、そういうことになる。そう言っているように聞こえる。
だが、それを言ってしまったら、俺が無明歳刑流の本家の嫡子として生まれ、庶子のあいつがその存在を真向から否定されたことの責任は、一体誰がとるというのだろう。あいつの痛みは、あいつの孤独は、誰が贖えば良いのか。それとも、これが最善なのだから諦めろとでも言うのだろうか。
『最善』という美しい言葉の陰で泣く者たちの声を、少しマシな場所に生れ落ちた俺は、どう耳にすればよいのだろう。
優越感。同情。俺の手など、あいつにはそんな風にしか見えないだろう。俺だって、この気持ちが優越感や同情ではないと言い切れる程の根拠を持っていない。あいつが白々しく思うのと同じ量だけ、俺も白々しい。
だから兄とは名乗るまい。今更、兄弟だなんて白々しくて言えやしない。
ああ、でも。こう考えて見ると、何故あいつがあれほどまでに反社会的なのか納得がゆく。あいつの置かれた不条理な立場を『最善』と選択し定めた神へ報復するために、あいつは叛逆し続けるのだろう。この一番マシな調和を壊すために。
だが、それもまた神の掌のうちというのが、この形而上の問題の救われないところだ。何もかもが愚劣だ。愚か過ぎる。
善も悪もない。ただ天地の理の中で、俺たちは高きから低きへと流れる水のごとくそれに従うのみ。誰もが自分の意思で動いているようで、実は予定された調和を鏡に映し見て、右往左往しているだけなのだ。
それでも、1つだけ言えることがある。神がどんな調和の世界を予定しているのか、誰にも解からないということだ。ひょっとしたら、あいつがあんな風に生まれついたのは、今の俺よりももう少しマシな場所へ行くために用意されたステップなのかもしれない。そういう調和の可能性だってあるのだ。
なあ、螢惑。楽しみじゃないか。正反対の道をゆく俺たちの、どちらに未来が用意されているのか。
どちらの道が正しいのかは知らない。だが、俺たちが決着をつける時は必ず来る。それだけは確実に解かる。それが俺たちに用意された『調和』なのだから。
おわり
全くひねりなし。お題が難しすぎて、何も浮かびませんでした。
05/3/30