+・+ 親バカシリーズ +・+

兄という名のもとに
(現代・ハイティーン設定)


FROM  パパ
SUB  。・゜・(ノД`)・゜・。うわぁぁぁぁん

今年のXmasイブは海外出張になっちゃったよぉ(T△T)
家族で過ごせないイブなんてもうサイアク!!!
辰伶と螢惑以外みんな爆発しちゃえばいいのに!!!!! ヽ(#`Д´)ノ┌┛
でもクリスマスの夜には頑張って帰るから、おみやげ楽しみにしててね(・ω<)-☆


「螢惑、父上からのメール、見たか?」
「…あー…あの喜怒哀楽の激しい無駄に顔文字だらけのメール?」
「こら、父上が無理に背伸びして頑張った顔文字を無駄とか言ってはならん。それで、クリスマス・イブは俺たちだけだが、夕食は何が食べたい?」
「辰伶」
「…え?」

 驚いて…というよりも、螢惑の言葉の意味を把握しかねて、辰伶はポカンと異母弟の顔を見つめた。

「…の、手料理」

 ぼそりと螢惑が言葉を繋げると、途端に辰伶は笑みをこぼす。声も少し甘くなる。

「螢惑は昔から慎ましいな。でも、こんな時は遠慮せずに、何でも好きなものを言えばいいんだぞ。どこの店がいい?ちゃんと父上からお金を預かっているから大丈夫だ」

 そうじゃないんだけど。辰伶が異母弟に対して夢見がちなのこそ昔から変わらない。あと2カ月程も経てば立派な成人という歳にもなるのに、幼少期に勝るとも劣らぬ極上の天使の笑みを浮かべる異母兄が、螢惑にはますます眩しい。

「あのさ、レストランのディナーとか、今から予約取れるの?クリスマス・イブだよ?」
「ああ、そうか。…そうだな。きっと、カップルで一杯だろうな。しかたない、こんな日は恋人たちに譲るか」

 譲る、と聞いて螢惑は何だか不愉快な気分になった。自分は愛しい人の一番近くに居ながら「兄弟」という名の壁に阻まれているのに。世界中のカップルなど全部まとめて爆発してしまえばいい。

「しかし…俺が作るのか?料理なんてしたことないからどうなるか解らないぞ」
「家で辰伶と二人きりでご飯が食べたい」

 ダメ?と小首を傾げてみせる。螢惑のこの仕草に辰伶が弱いことは織り込み済みである。内気で大人しい弟幻想は今も健在だ。

「…螢惑がそう言うなら、頑張ってみようかな。ごちそうはとても無理だろうけど」

 あ、と螢惑は思った。辰伶の手料理が食べたいというのは、半分口から出任せだったのだが、これは実はとんでもなく凄いことであるのに気付いた。辰伶の初めての手料理。それはつまり辰伶の『お初』を頂くことに他ならない。

 クリスマス・イブに辰伶のお初を美味しく頂く。この言葉だけで軽くご飯3杯はいけそうな気がする。

「炊飯器の使い方くらいは知っているが、どうしよう。とりあえず料理の本を買って…」

 螢惑の内心など知らぬげに、辰伶はすっかりその気になって、あれこれと計画を立て始めている。その姿がいじらしくも愛おしい。

「俺が教えてやるよ」
「螢惑が?」
「俺に任せて、俺の言う通りにすればいい。何も知らないお前を、俺が仕込んであげる」
「そうか。じゃあ、お前に全て任せるからな」
「……」

 結構際どい言い方したつもりなんだけど。螢惑は顔に笑顔っぽいものを貼りつけて見せた。笑えない時に、他人からは笑顔に見える顔。

 しかし辰伶には通じなかった。怪訝な顔で螢惑を窺い見る。無理に表情を作るのをやめて辰伶を見つめる。

「何だ?急に真剣な顔をして」
「辰伶とキスしたい」

 一瞬だけ辰伶は不思議そうに螢惑を見て、それから眠るように目を閉じて優しく螢惑の唇を啄んだ。子供の頃に嘘を言って彼に教え込んだ『兄弟の挨拶』をそのままに。幼い螢惑がついた他愛のない嘘のまま…

 その他愛のない嘘が、優しい嘘に変わったのは何時からだろうと螢惑は思う。きっともう辰伶だって解ってるはずだ。自分たちはもうそんな初心な年齢じゃない。それでも辰伶はまだ騙されたままでいてくれる。

 螢惑は辰伶にキスを返した。深く貪るように。兄弟ではあり得ない激しさで。
 辰伶は騙され続ける。優しい嘘の仮面を被りながら、螢惑の本心に気づかぬ振りで。


 螢惑の熱情が辰伶の心を激しく揺さ振る。

 辰伶は自分の狡さを自覚している。自分は兄なのだと、ことさら強調して螢惑に自制を促すのは、もう自分では気持ちを止められないから。彼の指も唇も、何一つ拒めなくなっている自分が怖いから。

 辰伶にとって螢惑はとっくに弟ではなかった。だから、螢惑が止まってくれないとだめなのだ。

 でもきっと、それも時間の問題なのだろう。兄という名のもとに築いた壁がただの張りぼてに過ぎないのを、螢惑に悟られてしまうのも…


 おわり

+・+ 親バカシリーズ +・+