+・+ 末期の部屋 +・+
金の翼・銀の羽根
-5-
(epilogue)
寝息を立てる事もなく、文字通り死んだように眠り続ける異母兄。そうして彼は、自らの回復を図っているのだ。今は眠ることだけが、彼の務めだ。柔らかな寝台に寝かされ、彼はどんな夢を見ているだろうか。
魔界の、辰伶の実家の彼の寝室。深い眠りにある人も、寝台の傍に椅子を侍らせて視凝めているほたるも、時を止めた彫像のように動かない。何か語ることもない。どうせ返事が返らぬからではなく、常に心の中で語りかけ、想っているから。
寝室の重厚な扉がノックされ、静かに開いた。辰伶と同じ髪の色をした婦人が入室してきた。辰伶の母親だ。魔界の法律上では、ほたるの母でもある。
意識の無い辰伶を抱えて魔界を訪ねたほたるを、彼女は涙と抱擁で迎えた。愛しい幼子と生き別れになった悲しみと、再会できた喜び。ほたるの母親への謝罪。涙ながらに語る婦人は、辰伶とよく似ていたが、辰伶よりも小柄だった。ほたるは、辰伶がこんな状態になった次第を彼女に説明し、謝った。婦人はほたるを責めることは欠片もなく、辰伶に対して一言、『しょうがない子ね』と言って苦笑したのだった。
「辰伶の部屋で、見つけたの」
肩越しに差し出されたものを、ほたるは受け取った。それは一冊の絵本だった。表紙にはパステル調で天使の絵が描かれている。
「人界の子供向けの絵本よ。昔、お父様が辰伶に誕生日か何かのプレゼントとして与えたの。辰伶はこれをとても気に入っていて…」
ゆっくりとページを捲ってみる。随分と丁寧に、大切に扱かわれてきたのだろう。多少の擦り傷や日焼けはあるが、そんな古いものとは思えない綺麗な状態だった。
「貴方が生まれた時は、この絵本の天使にそっくりだって、辰伶は心から貴方を愛し、慈しんでいたわ」
「…俺、辰伶の羽根を毟ったってね…」
「そんなこともあったかしらね…」
絵本を閉じて、ほたるは立ち上がった。辰伶の母親の手に、彼女の息子の愛蔵品を返した。
「じゃあ、俺、行くから」
「また…ここへ帰って来てくれますか?」
心配そうに伺う母親に、ほたるは微笑んで見せた。
「ちゃんと帰るよ。…母さん」
やっと、そう呼べた。晴れやかな心で、ほたるは館を後にした。
「さて…と、久々の天界だなあ…」
ほたるは銀色に輝く翼を広げた。これから天界に乗り込み、自分の翼を取り戻す。
辰伶が目覚めたら、彼が見たがった金色に輝く翼を見せてやるのだ。
おわり
イメージ音楽
『とぎれとぎれのSilent Night』、『光の人』/ZABADAK
長くてスミマセンな後書き
2007年Xmas企画にご参加下さいました方々へのお礼小説として、本作を書かせて頂きました。完結まで約1年もかかってしまい、汗顔の至りでございます。今回の話はハッピーエンドと言ってしまっていいのか悩むところで、読者様の反応が気になります。不快に思われましたらゴメンナサイ。
連載中、拍手等でお声をかけて下さった方もいらして、とても励みになりました。当初、遊庵の登場予定は無かったのですが、頂いたメッセージが切っ掛けで考え直してみたところ、「あれ?遊庵を登場させた方が話が楽に進むんじゃ…」ってな感じで、登場シーンができてしまいました。愛されてるなあ、遊庵は。
KYOの連載が終わってからというもの、「弟スキスキ、大スキ〜v」な仔辰伶が好きでなりません。そのせいで辰伶の弟萌えがどんどん加速しています。若干ほたるが引き気味だと、尚たまりません。恋人になりたいほたるにとって、兄弟愛は邪魔というか、むしろ敵かも。
その後、ほたるは天界に乗り込んで金の翼を取り戻しにいくのですが、その過程で狂や四聖天の面々と知り合って、仲間になっていきます。どちらかというとそっちの方が本編で、こちらはほたるの過去話(もしくは、ほたるが翼を取り戻したい理由)という位置づけのサイドストーリーのような感じがします。
本編は書かないけど。だって辰伶が出ないんだもん… (´・ω・`)ショボーン・・・
ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました。KYOの連載が終わって、次の連載も終わって、次の作品が連載されている御時勢ですが、ネタが無くなるまで(ストックは余り無いけど書くのが遅いからなかなか無くならない)は、壬生の兄弟のお話を書き続けたいと思います。
三景拝
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