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今宵の宴に
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焚き火が爆ぜた。ふらりと立ち上った火の粉を、ほたるは膝を抱えながら目で追っていた。小さな火の粉は蛍の光のように儚く闇に消えた。
全く感情を顔に表さないこの漢が、いつになく塞いでみえたので、アキラはそっと語りかけた。
「そんなに嫌だったのか?舞の稽古」
「舞が嫌いだった。…嫌いだったけど、今はそうでもないよ。何だか不愉快なことが一杯あったような気がするけど、楽しいこともあったような気がしないでもないし。それに…」
「それに?」
「俺はもう空っぽじゃないから」
梵天丸のがさつな手が、乱暴にほたるの頭を掴んだ。
「空っぽじゃないって、頭の中身のことかあ?天然ボケのお前の頭の中に一体何が詰まってんだよ」
ガシガシと頭を捏ね繰り回されて、ほたるはフラフラと頭を振った。
「何かわからないけど。何かいる」
「ムシか?ムシが湧いてんだろ」
そう言ってからかう梵天丸の脳天を、灯の錫杖が直撃した。
「うっさいんだよっ、てめーはっ。虫が湧いてんのはケモノの貴様だろうっ。そこの川で蚤でも落としてきやがれ」
ひとしきり梵天丸をどつき倒した灯は、すぐさま聖母の微笑みに切り替えてほたるに尋ねた。
「それで、あんたの中に何がいるの?」
滅多に己を語らないほたるから、どんな楽しい話(秘密、弱みなら尚良い)が聞けるかと、灯は興味深々で聞き入った。
「狂がいる」
黒い着流しの漢が、ゆっくりと酒を干す。
「それからアキラがいる。梵天丸がいて、灯ちゃんがいて、それから…」
それから、銀色の髪。それを思い出したら、急に胸が痛くなった。それが余りに酷かったので、それ以上考えるのを止めた。
「だから、アキラに教えてあげる」
「え?」
「舞。教えてあげる」
「……うん」
アキラは瞳を輝かせると、はにかむように頷いた。灯が微笑む。梵天丸はひっそりと杯に唇を寄せた。
そして、焚き火の向こうには、炎よりも紅い2つの瞳が。
終わり
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