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親なし仔ぎつねの巣
(お題:ケモノ化してみる?)
ああ、ごめん。
こんなところに誰かいるなんて、ちっとも思わなかったから。
邪魔ならすぐに出て行くけど、もし…
もしも、僕が居ても邪魔じゃないなら、もう少しここに居てもいいかな?
この雨が止むまで…
ありがとう。君の隣に行ってもいいかな?
素敵な場所だね。この洞穴は、君の秘密の隠れ家?
蔦が絡まって、入り口を何気なく隠してるところがワクワクする。
この辺りには何度も来たけど、ここがこんな風になってるなんて、ちっとも知らなかった。
大丈夫。誰にも言わない。
君の大切な場所を壊したりしないよ。
こんなふうにしてると、僕達まるで動物みたいだね。
君は…キツネかな。
金色のキツネ。
だって、髪が金色だもの。
僕もキツネなの?
ふふっ、そうだね。僕は銀色のキツネ。
僕たちはキツネの兄弟だよ。
母親ギツネが帰ってくるのを待ちながら、仲良く留守番してるの。
え、母親は帰って来ないの?
死んだって…どうして?
罠に掛かったか、猟師に殺されたか、それも知らずに僕たちはずっと待ってるの?
そんなの哀しいよ。
遊びなんだから、もっと楽しいこと考えようよ。
こんなのは、どうかな?
僕たち2匹は、冒険に出かけたんだ。
生まれ育った巣が狭苦しくなってきたからね。
ちょっと下手だけど、もう狩りだって出来る。
他の兄弟たちは臆病で甘ったれだから、僕と君の2匹だけで、広い草原に飛び出した。
草原には花が咲いてる。白い花がたくさん。
ひらひら飛んできた蝶々を、僕たちは追いかける。
もちろん、本気で捕まえる気は無いんだ。
だって、蝶々は食べられないから。ふざけて、じゃれているだけ。
蝶々もそれがわかってる。
僕たちが跳ねればどうにか届くくらいの高さを、ひらり、ひらりと思わせぶりに飛んでいく。
それに釣られた僕たちは、すっかり夢中になっちゃって…
気付いたら、全然知らない森の中に迷い込んでた。
でも、平気なんだ。
だって、僕には君が、君には僕が居るんだもの。
兄弟で力を合わせれば、何でもできる。
森の中を歩いていたら、雨が降ってきちゃった。
そうしたら、君が指をさす。
『あそこに洞穴があるよ』
それがここ。
この素敵な洞穴。
僕たちはぴったりと体をくっつけ合って、雨に濡れて冷えた体を温め合う。
「コン」
「コン コン」
ああ、あったかいね。
雨の音も、何だか優しいね。
「コン」
「コン コン」
雨、ずっと止まなければいいのに…
そうだよ。
君の思った通りさ。
僕は家を飛び出してきた。
ああ、腫れてる?うん。殴られた。
雨で冷えたから、もう痛みは無いよ。
ねえ、僕は…そんなに『悪い子』なのかなあ…?
いつもいつも、僕が『良い』と思うものは、全部『悪いモノ』なんだ。父上が、そう言う。
こんなことでは、立派な『みぶのせんし』にはなれない。
生まれた価値がない。
父上は、もっと優秀な子供が欲しかったのかな。
僕なんかで、ガッカリしてるのかな。
僕は…
生まれてきちゃいけなかったのかな。
「コン」
「コン コン」
君もなの?
「コン」
「コン コン」
君も、捨てられたの?
「コン」
「コン コン」
そうだね。僕たちには、親なんか要らない。
僕には君が、君には僕がいればいいよね。
こうして2匹で寄り添っていれば、雨の音も優しいから。
おわり
2人の子供時代。互いに互いが異母兄弟だとは知らなかった頃のお話と思って下さい。
何も知らないまま、2人が純粋に仲良くしているのは、綺麗だとも思うし、哀しいとも思います。
三景 拝
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