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仲良きことは
(第199話より)


「アキラ耳が赤い」
「てれ屋ー、てれ屋ー」

 アキラの額に怒りの筋が浮かび上がった。

「何か言いましたか!?」
「いいえ、まったく」
「独り言」

 アキラの怒りの波動をしれっと受け流して、紅虎とほたるは揃ってあさっての方向を見ている。ほんの数時間前に出会ったばかりで、偶々くじ引きで同行することになっただけの仲だというのに、すっかり互いに馴染んでいるこの2人は一体何だろうと、アキラは思う。

「…あなた達、やけに仲がいいですね」
「そう?」
「フツーやろ」

 そもそもほたるという漢は四聖天時代から常に孤独を好む性質で、『仲間』などという言葉からは一番遠い存在だった筈だ。狂との戦いでその性癖を改めたらしいが、それにしてもよりにもよってこんな漢(紅虎)と意気投合しなくたっていいではないか。

 紅虎。この漢はアキラの気に障る。ほたるも気に障るが、それでもその強さだけは認めている。ああみえても四聖天の1人だ。認めたからこそ、アキラも四聖天に名を連ねているのだ。

 たとえ、どんなにすくいようも無く天然でも。

 しかし、紅虎を認めることは、どうしてもできない。先の五曜星・太白との戦いにおいても、彼と太白との実力の差は明瞭であり、あんな結末をアキラは絶対に勝利と呼びたくない。

 弱いのだ。説得力が無いのだ。その癖、調子に乗る。意味も無く喋る。煩い。
 どうしてこんなお調子者と一緒に行動しなければならないのかと思うと、くじ引きの神に嫌味と嫌がらせの百も二百も言った上でとどめにフリーズドライして粉々に砕いてやらないと気が済まない。

 ほたるだって、紅虎の実力が自分達のレベルよりも遥に下であることなど判っているはずだ。ほたるは紅虎が大マジで戦っている処を見てはいないが、それでも一緒にいればその実力の程は肌身で感じ取れる。少なくとも、戦闘能力においてほたるが興味を持つようなものなど、紅虎が持ち合わせているとは思えない。

「…本当に、どうしてこんな漢と仲良くしてられるのか、理解に苦しみますね」
「そう?よく解からないけど、アレかなあ。オレの知ってる誰かに雰囲気が似てるからとか…」
「え?そうなんですか?」
「何?わいに似た人物やて?そいつはどないな奴やねん」
「え?誰が誰に似てるの?」
「…ほたる。貴方、思いつきで『知り合いに似てる』って言っただけなんですね」
「え?オレの知ってる人に似てるの?………辰伶?」
「全然似てませんよ。顔も性格も実力も」
「じゃあ…梵天丸」
「わいはあんなごっつい獣とちゃうで」
「灯ちゃんには似てないし」
「あんな変態はこの世に1人で十分です」
「……」

 ほたるは幾許かの沈黙の後、ぽんと1つ手を打った。

「判った。アキラだ」

「全然似てませんよっ!」
「全然似とらんでっ!」

「私とトラさんの、一体何処が似ていると言うんですか!」
「目が線なトコ」
「私は目を閉じているんです!トラさんの線目とは違います!」
「ホンマ、勘弁して欲しいわ。わいはこんな腹黒くないでえ」
「…そうですか。何なら私が貴方の腹を掻っ捌いて、その色を公開して差し上げましょうか」

 不意にアキラは意地悪く笑った。

「要するに、同類なんですね。『バカ』『アホ』『ボケ』の三重苦を互いに同情しあっているのでしょう。だから気が合うんですね」
「ふ〜ん、そうなんだ。…で、誰が気が合うの?」
「ほたるはんとわいらしいで。って、誰が三重苦やねん!……あかん、やっぱりキレが悪いわ。ゆやはんがおってくれはらんと…」

 この2人が揃うと、アキラの毒舌も切っ先が鈍るような気がする。灯とは別の意味でこの2人には苦手意識が湧いてくる。

「アキラ、ボケはボケ同士気が合うっちゅうのは、思い違いやで。ボケとボケの会話には、オチが無いんや!ボケが活きるのは的確なツッコミや!わいはその気になればツッコミもするがな、基本的にはボケ側やねん。ましてやほたるはんのボケは天然。天然ボケや。一見気が合うように見えても、そこに『笑い』は無いねん!」
「だれが漫才談義をしろと言いましたっ!」
「今のアキラのツッコミは?」
「イマイチやな。大まけして40点てところや。やっぱゆやはんやな〜」

 嫌だ。ボケキャラ2人を相手に会話なんて嫌過ぎる。このままでは世間(KYO読者)から『3バカ侍』と言われかねない。2人がコンビを組むのは勝手だが、自分を巻き込まないで欲しいと、アキラは切実に願った。

「…よく解からないけど、同情じゃないと思う。オレ、ボケてないし」
「貴方よくもまあ…」
「言っても無駄や。自覚が無いのが天然たる所以や」
「なるほど。ボケはボケを知るんですね」
「ホンマ一言一言憎ったらしいやっちゃなあ。こう見えても、わいはもともと人徳はあるんや。どこかのよっぽどヒネくれた性悪以外なら、誰とでも仲良うできるんや」
「ああ。じゃあ、アキラとはダメなんだ」
「貴方の何処に人徳があるんですか!っつか、ほたる!誰が性悪だよっ!」
「ほれな。ボケが2人で話したら、ツッコミどころが曖昧になってまうやろ。会話がぐしゃぐしゃやん。アキラ、お前はほたるはんの専属ツッコミになるんや。わいにはゆやはんでピッタリやろ」

 嫌だ。ボケキャラ2人を相手に会話なんて嫌過ぎる。このままでは以下同文。

「…もう2人で好きなだけ馴染んでて下さい」
「そうする。…で、何が馴染むの?」
「せやからゆうとるやろ。ボケ同士じゃコンビは組めへんて」


 収拾がつかなくなりましたので終わらせて下さい。

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