06.背中越し
カチャ・・・ 『ただ今留守にしております。発信音の後にメッセージをどーぞ。たぶん聴かないけどね。今日は辰伶とデートだから依頼は受けないよ。ケータイも電源切っとくから。あっ、辰伶のケータイ鳴らしたら殺す!』
ピ ―――― ・・・
「………仕事しろよ」
8月13日は俺の誕生日。今日は朝から辰伶と出かけちゃうから、依頼人の人が困らないように仕事用電話は留守電をセットしといた。これが社会人としての自覚だよね。
えっと、鏡、鏡…。きちんとした服装で来いって辰伶に言われたけど、これでいいよね。おかしくないよね。
戸締りは…別にいいか。母屋の方に辰伶が雇ってる使用人の人がいるわけだから、完全に留守になるわけじゃないし。
じゃあ、辰伶との待ち合わせの場所に行こうか。待ち合わせったって、正門の前だけどね。俺は離れ屋に住んでるから、外出るときは大体裏門を使うけど、今日は辰伶と一緒だから。
久しぶりの、辰伶と、デート(←ココ、すごく重要)。雨が降らなくて良かった良かった。
庭を突っ切って正面玄関へ廻る。池の架け橋を渡るとちょっとだけ近い。ほんとに無駄に広い庭だと思う。やっぱり渡り廊下から母屋に行った方が良かったかな。靴持ってさ。
正門の前では、既に辰伶が大きな花束を抱えて待っていた。車も廻されてきている。
「いくぞ」
「うん」
運転手が後部座席のドアを開けて待っていた。先に辰伶が乗り込み、俺もそれに続いた。完全に乗り込んだのを確認して、運転手がドアを閉めた。
「良かったね。晴れて」
「そうだな。せっかくの墓参りだからな」
…デートだもん。
つまりさ、俺の誕生日ってお盆なわけだから、この日は毎年お墓参りになっちゃうわけ。辰伶が持ってる花束もほおずきだし。なんか凄く嬉しくないから、デートだとでも思わなきゃ、やってらんないよ。
しかも何? ここんちの墓って、バカみたいに大きいんだよね。本当に先祖代々ってカンジ。しかも4箇所もある。それを全部掃除して廻るんだから、御当主様も楽じゃないね。
俺は俺で1つのお墓を前にする。これが俺の母さんの。このお墓は俺の母さんの為に辰伶が建ててくれた。母さんは天涯孤独で親戚なんていなかったし、辰伶の父親の愛人だったから、本当だったら遺骨の行き場なんて何処にも無かった。
墓石を磨き終わったら、ほおずきを供えて線香に火を付けた。細い煙が真っ直ぐ昇っていく。手を合わせて目を閉じる。
母さん、久しぶり。あんまりお参りに来なくてゴメンね。あれ? でも、草とか伸びてなかった。誰か掃除に来てる? てゆーか、俺以外で来る人って辰伶しかいないけど。あいつは月に一度は来てるみたいだから、ついでに母さんのお墓も掃除してくれてるのかな。それっぽいなあ。あいつ、若いくせに変な処にだけは良く気がつくよね。いつもは鈍感なのにさ。
そう、鈍感なんだよ。ねえ、聞いてよ、母さん。俺がこんなに好きなのにさ、あいつ全然気づいてないんだよ。気づかれても困るけど。だってあいつ頭が固いから、異母弟の俺が異母兄のあいつに恋愛感情もってるなんて知ったらパニックになっちゃうよ。
でも、俺さ、最近ますます辰伶のことが好きになっちゃってる。そーゆーわけだから、孫は諦めて。いいよね、別に。辰伶みたいに守んなきゃなんない家も無いしさ。母さんも自分の好きなように生きたんだからいいでしょ? 実際さ、愛人って、要するに不倫なわけだし。同性愛とか近親相姦とかと比べて上等とか言わないよね。言っても聞かないけど。それから…
砂を踏む音に気づいて目を開けると後ろに辰伶が居た。あっちは4箇所もあるというのに、全部終わったみたい。俺、長く拝み過ぎてた。
「俺も拝ませてくれ」
「うん」
辰伶に場所を空ける。辰伶は母さんの墓に向かって手を合わせると、少し頭を垂れて拝礼した。俺は1歩後ろ位に立って、その真摯な背中を見つめていた。辰伶は義理よりも少し長く拝んで、嫌味にならない程度で切り上げた。
「行くか?」
「あ……あのさ。…親父が入ってるのはどれ?」
「こっちだ」
辰伶は俺を先導して、1つの墓を指し示した。辰伶の父親、つまり俺の親父が眠ってる墓。俺はそれにちょっと手を合わせた。別に親父なんてどうでもいいけど、ここには辰伶の母親も眠ってるから、ちょっとお礼。
じゃあね、母さん。また来るよ。
さてと、ツマンナイ年中行事は終わったことだし、これからが勝負。墓参りなんかで俺の誕生日を終わらせるつもりはない。帰りの車に乗り込む前に、すかさず提案する。
「ねえ、これからどっか行かない?」
辰伶は車に乗り込もうと身を屈め掛けていたのを、まっすぐに直して少し考えるような仕草をした。
「お盆だから仏壇を拝みに親戚連中が来るかもしれんな…」
「…ダメ?」
「ちょっと待て」
辰伶はケータイを取り出すと、家に電話をした。親戚が来たら仏間に通して茶と菓子を出すこと。自分は遅くなるが、客が長居をするようなら好きにさせておくこと。食事の用を伺うこと。泊まって行くようなら部屋を用意することなど、使用人にいくつか指示を与えた。
「これでよし。どこに行きたいんだ?」
「親戚の人とかの相手とかしなくていいの?」
「特に俺に用がある訳じゃない。集まる場所があればいいんだ。うちを溜まり場にして勝手にお喋りしててくれればいいさ。大事な話なんて1つも無いんだから。暇な年寄りの楽しみを奪ってはいかんというが、俺だって結婚がどうの、見合いがどうのなんて話はうんざりだ」
「…見合いの話なんてあるの?」
「ああ。奴らは独身者を見ると、そういう話がしたくて堪らんのだ。お前だってその場に居れば恰好の餌食だぞ」
「…余計なお世話だよ」
「全くだ。余計なお世話だ」
ほんとだよ。辰伶にそういう余計な話は持ってこないで欲しい。そりゃあ、辰伶は家を継いでるから、いつかはどっかの女と結婚して跡継ぎつくんなきゃいけないんだろうけどさ、そんなのは百万年後でいいんだよ。
今のところは辰伶も迷惑そうにしてるけど…
「ねえ。今、『遅くなる』っていってたよね」
「せっかくだから夕食もどこかに食べに行こう。今日はお前の誕生日だし」
へえ、覚えてたんだ。
「当然、辰伶のおごりだよね」
「ああ。何がいい?」
「フレンチ」
「珍しいな。いつもは堅苦しくて嫌だというのに」
「たまにはね」
だって、デートだもん。
「ふ…ん、今日の服装なら大丈夫だな。俺が普段行くところでいいか?」
「いいよ」
って、普段は誰と行ってるの? ちょっと聞き捨てならない。そんな俺の内心のツッコミに気づくはずもなく、辰伶は行きつけのフランス料理屋に予約の電話を入れている。
「割と気軽に食事を楽しめる店だから、お前も気に入ると思う。服装にも煩くはないが、曲がりなりにもフレンチだからな。あまりな格好では店の中で浮くからな」
あまりな格好ってのは、俺の普段着のこと? ふーん、そんな風に思ってたんだ。へーぇ。ほーぉ…
辰伶って、素でムカつく。
夕食までまだたっぷり時間がある。運転手を帰して、俺達は適当に昼食をとった。そこで夕食までの時間をどうやって潰すか相談した。勿論、俺には予定の行動だから、ちゃんと決めてきてる。デートといえば、やっぱり映画だよね。
そういうわけで、今、映画みてるんだけど…何コレ。今話題の大ヒット作って聞いたんだけど、全然つまんない。てゆーか、主人公のカップルがイライラする。特に男。バカじゃないの?とか思う。ストーリーは意味不明だし。
映画が始まってから辰伶は腕を組んだまま微動だにしてないけど、こんなの真面目に見てるのかな? …あ、寝てる。とっくに熟睡してる。
だよね。これつまんないもん。でもさ、辰伶。以前、どっかのオーケストラのコンサートで俺が寝てたら、思いっきり足を抓って起こしたよね。そーゆーことしといて、自分は気持ちよく寝ちゃってていいと思ってんの?
まあいいや。俺も寝よ。
◇
◇
◇
「なかなか面白かったな。お前が恋愛映画が好きだとは知らなかったが」
…嘘つき。熟睡してたくせに。
「でも主人公の男って、バカだよね。好きな女がいるなら、あんなことしなきゃいいのに。辰伶はどう思う?」
「……」
ほら、答えれるもんなら答えてみなよ。
「そうだな。無理に他の女と婚約しなくてもな。最愛の相手と絶対に結ばれないなら、誰と結婚しようが同じだという気持ちは解からなくもないが、それならそれでスッパリ諦めれば良いものを、いつまでも未練たらしくグズグズと…」
あれ? 寝てたんじゃなかったの? ううん。絶対に寝てた。寝てたのに何で知ってんの?
「今の映画、見たの今日が初めてだよね?」
「映画自体が久しぶりだ。恋愛ものは見ないし」
…辰伶って、たまに不思議。
レストランの予約時間まで、中途半端に時間がある。どうしようかと思っていたら、辰伶がアクセを見たいって言い出した。意外だったんだけど、辰伶ってこうみえて、アクセが好きで結構いっぱい持ってる。
俺もアクセは好き。ストリートのノーブランドからクロムハーツまで色々。最近はレオ・ズルエタがちょっと気になる。ボルネオリングとか欲しいかも。
今見てるのの中だと、このbizarreのエンジェルリングとデビルリングがちょっとイイカンジ。エンジェルリングは天使の翼がジルコニアを抱いているデザイン。デビルリングはコウモリの羽がオニキスを抱えてる。どっちか欲しいけど、どっちにしよう。2つも要らないんだけど、でもこれって、2つペアで並んでるから面白いんだよね。悩むなあ…
辰伶はGIGORが好きみたい。ナローシリーズのダブルクロスペンダントを付けてるの見たことある。オールシルバーだって結構するのに、辰伶が持ってたのは中のクロスが18Kの方。お高い奴。
辰伶って何かにつけてお高いからロンワンズとかD&Gとか言いそうだけど、あいつが最近凝ってるのはDropsっていう割と新しいブランド。ここのブルーチタンシリーズを集めてる。実は2年前の辰伶の誕生日に俺がこのシリーズのペンダントトップをプレゼントしたのがきっかけ。一目見て、ここのブルーとシルバーの組み合わせは絶対に辰伶のイメージだと思った。だからちょっと高かったけど、辰伶にあげたくなったんだよ。気に入ってくれて良かった良かった。
ふと気づくと、辰伶がこっちをジッと見ていた。
「何?」
「いや、これなんかお前に似合いそうだと思って」
辰伶が指したのはブレスレットだけど、え? ピンクゴールド? デザイン的にもコレって女物じゃない? あ、一応ユニセックスだ。
「前からお前はピンクゴールドが似合うと思っていたんだ。普通のゴールドよりも温かい感じで、ほら、お前の髪の色にも合う」
「合わないよ」
「絶対に合う筈だ。…すみません。そのブレスを試着したいんですが」
辰伶はさっさと店員を呼び止めてショーケースを開けさせている。何て強引な奴。着けてみるくらい別にいいけどさ。
「やっぱりな。なあ、似合うだろう?」
あのさ、店員に相槌求めてもしょうがないと思うんだけど。店員は商品を売りたい訳だから、当然…
「はい。大変良くお似合いです」
ほらね。絶対に貶すわけないんだよ。
「ピンクゴールドにはムードがありますから、普段とは違ったイメージが作れますよ」
何か訳のわかんないこと言い出すし…
「確かに色っぽいな」
辰伶も訳わかんないこと言ってるし。そりゃね、これで辰伶を悩殺できるなら買ってやってもいいよ。でもさ、
「でも、ゴールドって高い。俺、金ないから」
俺が欲しいリング2つ合わせたより高い。こんなの気軽に勧めないで欲しい。俺、辰伶みたいに金持ってないんだから。
「そんなに気に入ったなら、辰伶が買えば?」
「俺はピンクゴールドは似合わん」
「着けてみれば?」
「似合わんといってるだろう」
「俺には強引に着けさせといて、それってずるくない?」
「わかった。言っておくが、本当に似合わんからな」
俺は手首からブレスレットを外して辰伶に渡した。辰伶はそれを自分の手首に着けて見せた。
「どうだ?」
「え…っと」
コメントに詰まる。似合わないことはないけど、ある意味すごく似合ってるんだけど…。あ、店員の人も反応に困ってる。
「ほら、やっぱり変なんじゃないか」
変じゃないよ。変じゃないけど、ある意味すごく変。すごく…カワイイ。てゆーか、乙女チック。知らなかった。辰伶って乙女系だったんだ。
「笑いたかったら笑え」
「……」
ごめん。笑えない。
◇
◇
◇
すっかりシラけちゃった空気に気づいてないのか、それでも辰伶は俺にピンクゴールドのブレスレットを勧めてきた。しまいには誕生日プレゼントに買ってやるとまで言い出した。何でそんなに俺にコレを着けさせたいんだろう。
そりゃあ、辰伶が選んでくれたんだし、俺も別にピンクゴールドが嫌いってわけじゃないし、このブレスレットのデザインも好きだよ。プレゼントしてくれるって気持ちも嬉しいし。でもね、これって俺の今までの系統と全然違うから、これに合うようなピアス持ってないんだよ。リングも、ネックレスも。これを着ける為には、服から何から全部揃えなきゃなんないんだよ。
「あのさあ、買ってくれるっていうなら、別のが欲しいんだけど」
「どれだ?」
「こっち。これ」
俺はbizarreのデビルリングを指した。辰伶は少しの間、それをジッと見詰めていた。自分が勧めたのと全然違うから、ガッカリしてるのかも。でも俺、こういうこと妥協したくないから。辰伶のことすごく好きだけど、それはそれ。これはこれ。
「…気に入らんような物をプレゼントしても仕方ないか。このリングでいいんだな?」
「うん。これがいい」
精算を済ませてすぐに左手の中指に嵌めた。
「似合う?」
「ああ。似合っているぞ」
「ありがと」
ほんとは薬指に嵌めたいんだけどね。
辰伶が連れて行ってくれたフレンチレストランは寛いだ雰囲気だけど騒々しいということは全然なくて、とても落ち着いていた。客の年齢層も幅広い。
俺はフレンチなんて殆ど行かないから(そーゆーツレがいないんだよね。焼肉屋とかラーメン屋とか居酒屋とかが多い)、注文は辰伶に任せる。メニュー見たってどうせ解かんないし。
辰伶は如何にも物慣れたカンジで、前菜からデザートまで全部指定してた。唯一、ワインだけは店任せで。
「乾杯しようか」
「何に? 墓参りに?」
「馬鹿。お前の誕生日にだ」
解かってるよ。ちょっと冗談言っただけ。今日は辰伶とデート。お盆でお墓参りはついでで、今日は俺の誕生日祝いの為のデート。そうだよね。…そう思っててもいいよね。
「じゃあ、乾杯」
「乾杯。誕生日おめでとう」
「ありがと」
ありがとう。大好きだよ。
夕食を終えて店を出ると、迎えの車が待っていた。食事中に辰伶が1回席を立ったけど、その時に電話をしたんだろう。やることにソツが無い。ちょっと可愛くない。
いいお店だった。料理も美味しかったし、マナーとかあんまり気にしないでいられたのが一番良かった。辰伶はマナーは当然だけど、ナイフとかフォークの使い方がすごく綺麗だった。本人は全然無意識だから、本物の上品なんだろうね。改めて思ったけど、やっぱり辰伶って俺達とちょっと人種が違うっぽい。こういう時に実感するよ。ほんとに俺とこいつって、血が繋がってるの?
育ちが違う。アクセの好みも違う。行きつけの店も違う。顔もあんま似てない。どこに共通点があるっていうの?
帰りの車の中で、俺達は無言だった。この場には運転手っていう第三者が居たからっていうのが主な理由だけど、話したいことは食事中にいっぱい喋ったから、今は静かに辰伶の隣で座って居たかった。はしゃぎ過ぎた心を落ち着かせなきゃならない時が来ていた。
だって、これはデートごっこだったんだから。俺だけの。
もうすぐ家に着く。そろそろ兄弟に戻らなくちゃ。辰伶は異母兄。俺は異母弟。墓参りの帰りに、ちょっと兄弟で遊んできただけ。兄弟仲が良くて微笑ましいね。さあ、クールダウン、クールダウン。
辰伶と血が繋がってなければ良かったなんて思わないよ。だって、俺と辰伶の接点なんてそれしか無いんだから。俺が辰伶の弟じゃなかったら、きっと辰伶は俺になんか興味なかった。辰伶が俺の兄じゃなかったら、俺は辰伶と知り合うことは無かった。
時間とか距離っていうのはどこまでも主観の産物でしかなくて、車は早々と家に着いてしまった。正門の前で俺達を降ろすと、車は1秒も無駄にせずに車庫へ行ってしまった。
辰伶はさっさと門を潜ってしまう。俺もその後姿を追った。辰伶は真っ直ぐ玄関へ歩いていくけど、俺は庭に廻って離れ屋に帰る。だからここでお別れ。楽しかった今日も、これでおしまい。辰伶の背中に向かって「おやすみ」って言ったら、それで終わり。
「今日は楽しかったな」
「うん」
…どうしよう。俺は迷ってる。これでいいの? これで終わっちゃっていいの? 待ってよ。辰伶、ちょっと待って。ちょっとだけ立ち止まって、振り返って…
不意に辰伶が歩みを止めた。
「まるでデートみたいな1日だったな」
…何でこんなタイミングでこんなことを言うんだろう。辰伶がこんなこと言うから……どうしよう! 俺、すごく辰伶が好き!
「辰伶!」
背中越しに名前を呼ぶと、辰伶は無造作に振り向いた。
「何だ?」
俺は辰伶の左手を掴まえて、その手に巻かれた包帯を解いた。辰伶は呆気にとられて俺のなすがままだ。すっかり包帯をとってしまうと真っ赤な痣が現れた。俺はポケットからリングを取り出して、その手の中指に嵌めた。
「ほたる、これは俺がお前に買ってやった…」
「違うよ」
俺は辰伶から貰ったリングの嵌った俺の左手を見せた。
「おそろい」
俺の手にはオニキスを抱いたデビルリング。辰伶が買ってくれたもの。
辰伶の手にはジルコニアを抱いたエンジェルリング。俺が辰伶の隙を見て買ったもの。
辰伶に天使の加護がありますように。守護天使が妖魔から辰伶を守ってくれますように。そして俺には、例えそれが悪魔の力であっても構わない。あの妖魔を倒すだけの力が得られるように。
…ほんとは薬指に嵌めたかったんだけどね。
「おやすみ、辰伶」
「あ、ああ。おやすみ」
悪戯に成功した子供みたいに、俺は離れ屋へ駆けて行った。途惑う辰伶の視線を背中越しに感じながら。
背中に躊躇いがちな幸せを感じながら。
おわり
意味なくひたすらデートの話。これが2人にとって一番幸せだった頃の話になるので、力いれて書きました。
それにしても、辰伶はますます訳の解からん人になっていくし、ほたるは女の子みたいだし…これから先の展開は少女マンガちっくになる予定だし。読んでる人がどん引きしてなきゃいいなあと思う今日この頃。
それから、作中のブランドや商品は実在です。Dropsは2年くらい前にできたブランドで、私はここのブルーチタンシリーズとアラベスク・アンド・シェルシリーズが好きです。欲しいなあ…
(05/9/20)