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いつか光になる為に

-9-
(epilogue)


 施術を終えて、吹雪は息をついた。辰伶は眠っている。頬が青白い。術は苦痛を伴い激しい疲労を齎すので、その負担を考えると月に一度が限界だ。自ら望んだとはいえ、辰伶はよく耐えている。

 再び延命の方針を取り、妖魔の幼生を除去する研究を続けた。辰伶が周囲に知られることを嫌がったので、研究は吹雪とひしぎだけで秘密裏に行った。村正は気づいていただろうが、口に出しては何も言わなかった。

 やがて、この妖魔の幼生は長く体内にあると、宿主の肉体を妖魔と化して乗っ取る性質があることが判明した。それを知らされた辰伶は、妖魔になることに強い嫌悪を示した。それならまだ人間であるうちに死にたいと訴えた。

 苦しみ、悩み、それでも最終的には、辰伶は異母弟の傍で生きることを選んだ。螢惑への想いが、彼の中に最後に残った真実だった。

 己の人生全てを螢惑の幸せに捧げるという辰伶の決意は、或いは妖魔以上に螢惑を傷つけ苦しめるかもしれない。それを吹雪が止めないのは、甘えることを知らない弟子の貴重な我侭だからだ。

『もしも私が人であることを忘れて、世間に害を成すものと化した時は、どうか吹雪様、その時は貴方様の御力を私にお揮い下さい。…我侭を言って申し訳ありません』

 滅多に言わぬ分、痛切なまでに酷い我侭を言ってくれる。

「お前はこの俺に、何という残酷を強いるのか…」

 ――勿論、死なせたくはない。けれど…

 深い眠りの中にある辰伶をそのままに、吹雪は縁側へ歩み出た。

「誰が…誰がお前を妖魔になどしたいものかっ」

 外は雨が降っていた。


おわり

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